小田急エンジニアリングは、小田急電鉄をはじめとした各鉄道会社から業務の依頼をうけて仕事をしています。
ここでは、これまでに小田急エンジニアリングが携わった大規模プロジェクトをピックアップして紹介します。

Pickup project
運転保安装置更新
「D-ATS-P工事」
- クライアント
- 小田急電鉄株式会社
- 関連事業
- 電気事業
- プロジェクト期間
- 2002年~2020年3月
小田急電鉄にて当時運用していた「自動列車停止装置(OM-ATS)」は1969年に全線使用開始してから当時30年以上経過しているなか、高架複々線完成時の運転形態変更(列車運行の効率化)が求められ、高度なATS(D-ATS-P)による対応の検討が開始された。
その後、JR西日本(福知山線)の事故(2005年4月25日)が発生しATSの緊急整備が省令にて発令され、10年以内のATSの高度化が併せて国から求められていた。
本プロジェクトにおいて小田急エンジニアリングは、新ATS機器設置用の信号機械室改良から始まり、多くの関係会社の協力にて全線を5回に分けて切替を実施した。
- 2011年10月
- 多摩線
- 2013年5月
- 江ノ島線
- 2014年5月
- 小田原線(本厚木~小田原)
- 2014年12月
- 小田原線(新百合ヶ丘~本厚木)
- 2015年9月
- 小田原線(新宿~新百合ヶ丘)
工事は切替試験中に次の切替区間の施工を進めて行かなければならず、限られた施工期間の中で極めて厳しい状況であったが、小田急エンジニアリングを中心に関係各社が一体となり、2015年9月12日に全線の切替を完了した。その後もATS高度化に係る工事は継続したが、2020年3月に電気事業最大のプロジェクトは無事に完結した。
※D-ATS-P(Digital Automatic Train Stop Pattern)は細かな速度制御が可能で安全性と運転効率が向上する。
速度制御イメージ

Pickup project
小田急複々線事業
- クライアント
- 小田急電鉄株式会社
- 関連事業
- 電気事業・軌道事業
- プロジェクト期間
- 1989年〜2019年3月
1964年12月。当時小田急線は沿線人口の増加に伴い、ピーク時には混雑率が200%を超えていた。輸送力を強化する策として、東京都の都市計画事業と一体的となり計画されたのが、代々木上原〜喜多見間の立体交差・複々線化のプロジェクトだった。
本プロジェクトで、小田急エンジニアリングは線路の新設と100人規模の作業員を指揮する線路切替工事を担う。高架化や地下化といった難しい工事を3地区に分けて進めていき、プロジェクト全体で計39ヶ所の踏切が廃止された。最初のプロジェクトは喜多見〜和泉多摩川間の2.4km。線路切替工事とは新設した線路に既存の線路を移設して繋ぐ工事で、1回の工事の移設部分の線路延長は前後合わせて70メートルほどだった。工事は日付が変わった終電後から始発までの限られた時間で完了させなければならず、まさに分刻みの戦いとなった。
現場にはそんな緊張した作業が続く状況だからこそ感じられる一体感があり、着実に完成へと向かっていった。着工から約30年の年月を経て、2019年3月に代々木上原〜登戸まで複々線工事を終え、一大事業はようやく完成した。
Pickup project
片瀬江ノ島駅リニューアル
- クライアント
- 小田急電鉄株式会社
- 関連事業
- 設計・コンサルティング事業
- プロジェクト期間
- 2016年~2020年
片瀬江ノ島駅は、小田急江ノ島線の終端駅として1929年4月より営業を開始していて、リニューアル前の旧駅舎は、竜宮城をイメージした特徴的な駅舎で、「関東の駅100選」にも選定されるなど、江ノ島線開業以来およそ90年もの間、地元の皆様や江ノ島を訪れる方々に愛される駅となっていた。
施設の老朽化に加え、東京オリンピック・パラリンピックで、江ノ島がセーリング会場に選ばれたことや、藤沢市による「片瀬江ノ島駅前整備事業」に本駅舎の一部が支障するなど、駅舎改良の時期を迎えたことから、全面リニューアルする運びとなり2016年より基本・詳細設計を実施している。
新しい駅舎は、従来の竜宮城のイメージを踏襲しつつ、神社仏閣の技法である竜宮造りを採り入れた本格的で品格のある建物となっているほか、建物の細部には龍・天女など地域の伝説にまつわる装飾品や、イルカ・亀などかわいらしい海の生物をモチーフにした装飾品の数々が盛り込まれており、駅を訪れた方々をお出迎えしている。さらに駅舎の目玉として、新江ノ島水族館さまにご協力頂き、駅構内に大きな水槽を設置。水槽の中を優雅に泳ぐクラゲの数々は、多くのお客様の目に触れ、これまで以上に楽しんでいただくことができる駅となっている。
Pickup project
台風10号 災害復旧
(東海大学前─秦野間)
- クライアント
- 小田急電鉄株式会社
- 関連事業
- 電気事業・軌道事業
- プロジェクト期間
- 2024年8・9月
2024年8月30日に関東を襲った台風10号に伴う大雨により、小田急小田原線の東海大学前─秦野間で線路の盛り土が流出した。「再開には相当な時間がかかる」とし、翌日31日も伊勢原─小田原間が終日運転見合わせとなった。
小田急エンジニアリングは、事象発生直後から、小田急電鉄の要請に応えすぐさま復旧工事の手配を進めた。電気部施工管理グループ信号・通信担当では、ケーブルトラフ流出に伴い信号・通信ケーブルが2箇所、約100mに亘って宙吊り状態になった信号・通信ケーブルを現地確認による詳細な情報と関係各社との綿密な打合せを実施し、適切な資機材と人材を手配して防護処置等を行った。
また、電気部テクニカルグループでは、電車線を支持する電柱基礎が露出し倒壊する恐れがあったため、軌陸車を駆使し災害用仮設柱(過去災害により整備)による倒壊防止を直営にて実施した。夜間では、仮設した柱を列車運行に支障しない場所へ移設するなども行った。
最終的に軌道部にて線路のズレを修正するなど整備を行い、安全に運行が出来る状態を確認。作業環境が悪いなか安全を確実に確保し、関係各社の協力と「確かな技術力」を結集した正確かつ迅速な施工が早期復旧に繋がり、9月1日16時3分「伊勢原-秦野間」の運転を再開した。
このような災害復旧作業では、綿密な事前打合せにより施工方法と役割分担を決定・明確化し、関係者へ徹底すること。現場では、指揮統制と、コミュニケーション力を発揮することが大切である。災害では小田急エンジニアリング初となるウェアラブルカメラによる遠隔臨場により、現業・本社事務所のバックアップ体制も万全を期した。
現地状況

鉄柱倒壊防止(昼間応急復旧)

鉄柱倒壊防止移設(夜間応急復旧)

Pickup project
箱根登山電車
台風19号災害復旧工事
- クライアント
- 株式会社小田急箱根
- 関連事業
- 軌道事業
- プロジェクト期間
- 2019年10月〜2020年7月
2019年10月。台風19号の影響により、箱根登山電車は倒木・土砂崩れや陸橋の崩落、線路の破損など甚大な被害を受けて、箱根湯本〜強羅間の全線で長期運休を強いられた。箱根登山電車は、箱根を訪れる国内外の観光客を輸送するだけでなく、地元の方々の生活を支える重要な線路だ。運転再開見込みは約1年後の2020年秋頃とされ、運休は地域経済や沿線住民の生活に大きな影響を与え、早期の運転再開が強く望まれた。
しかし工事はいくつもの困難が重なった。箱根山中の現場は狭くて急な斜面も多く、重機が入らない場所は土砂を撤去しながら慎重に資材の搬入経路を確保しなければならなかったのだ。さらに、複数の工事を同時進行で行っており、土木工事や電気設備の復旧作業が進むにつれて現場調整はどんどん複雑になった。完成を目前にした2020年初めには、新型コロナウィルスが流行。現場の過酷さに追い討ちをかけた。
現場は感染予防に努めながら、クライアントや各作業担当会社など、会社の垣根を越えた技術を結集させることで、数々の厳しい条件を乗り越えていった。迎えた2020年7月23日。当初の予定を3ヶ月も前倒して運転再開を実現し、箱根に元気を取り戻すことができた。
Pickup project
久野川橋梁架替工事
- クライアント
- 小田急電鉄株式会社
- 関連事業
- 電気事業・軌道事業・設計・コンサルティング事業
- プロジェクト期間
- 2020年10月〜2026年3月
2020年9月。小田急小田原線足柄駅から小田原駅間に位置する久野川の氾濫を抑えるための神奈川県が実施する河川拡幅改修に伴い、鉄道橋梁の架替工事を実施。この工事において小田急エンジニアリングは、設計・コンサルティング部にて橋梁・線路線形設計を実施し、電気部は線路切替に関わる電柱移設・建替えを行うための井筒掘削や輻輳した架線の張替作業を実施した。
軌道部では分岐器まるまる一台の撤去・敷設を伴う特殊な線路切替作業を担っている。2022年度は河川に架かっている鉄道橋の架替工事を本格化するため、土木工事において既設橋梁の両側に仮設橋梁を構築した。これに伴い軌道部では、11月に仮設橋梁への仮線路切替工事を実施した。今回の切替工事では、通常の切替作業に加えて、分岐器の交換を含んだ工事があった。下り3本の終列車を繰り上げ、代替バスを手配するなど過去に例を見ない大規模な工事となったが、関係者と綿密な打ち合わせを重ね工程を作り上げ、軌道工事は予定していた時間より1時間以上早く終えることができた。
仮線路への切替後、土木工事にて既設橋梁を撤去。河川拡張工事が完了後、新しい橋梁を構築し、2025年2月末に上り線の新橋梁への線路切替工事を実施した。この切替工事当日は軌道部全職員に加え、全ての協力会社総勢120名程度での作業だったが、無事故無災害で完遂することができた。
2025年7月には下り線の新橋梁への切替工事も実施。
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西武鉄道サステナ車両
転用工事
- クライアント
- 西武鉄道株式会社
- 関連事業
- 車両整備事業
- プロジェクト期間
- 2023年12月~2025年1月中旬
2023年9月。環境負荷の低減と車両の有効活用を目的に、小田急電鉄の8000形車両を西武鉄道に譲渡し、西武鉄道の仕様に改修することで運行する計画が発表された。
2024年には実際に譲渡が開始。当社は、もともと⼩田急電鉄の車両だった8000形を西武鉄道で運行可能にするための転用工事を担った。具体的には運行に必要な装置・機器の交換(代替)やそれに伴う配線工事、座席や広告などのサービス関連の改修工事などを実施した。
また、小田急電鉄と西武鉄道では優先席の配置や、広告サイズ(紙面の大きさ)など室内ではお客さまの目に見えるところ、手に触れるところでも異なる部分が多い。お客さまが少しでも安全・快適にご使用いただけるよう見栄えにも細心の注意を払い取り組んだ。
この「サステナ車両導入」の取り組みは、環境負荷の低減と車両の有効活用を目的としており、鉄道業界全体の持続可能性向上に向けて今後も展開されていくとみられている。